スーパーヘテロダイン

中間周波数はなぜ455kHzと10.7MHz?



みなさんは、なぜ、スーパーヘテロダイン受信機の中間周波数に、
455kHzと10.7MHzが使われているかご存知でしょうか?
規定があるから・・・・まあ、そうなんですけど、
この規定の455kHz部分を決めたのは1950年、10.7MHzは1974年です。

ちなみにFM放送の実験局は1957年スタート、1970年本放送で、
JISの規定は現状を追認しただけ と考えられます。

Wikipedia日本語版の記述も、スーパーラジオを作らないといけなくなったから
1950年に決めた という内容になっていますが、
GHQが再生ラジオ禁止令を出したのが、1947年10月ですから、スーパーラジオの生産が先、455kHzの制定は後です。
3年間のブランクがあります。

10.7MHzはもっと長い時間差があります。
エプソンディバイス社の資料(2013年1月、QMEMSストーリー 第5回)には。
1950年代の終わり?に、海外出張した方が10.7MHzのクリスタルフィルタを持ち帰ったとの記述があります。
ハイフレフィルタ(高い周波数のフィルタ)の需要があるということで、
これに対抗するものとして、HCM(High Frequency Crystal Mechanical)を完成させ学会発表したのが1962年、
HCMは東洋通信機の登録商標なので、今はMCF (Monolithic Crystal Filter)と呼ばれていると言えば、
ああ、あれか!と、わかってくださると思いますが、これ、最初の品は10.7MHzなのです。
JISより10年以上前!。
やっぱり、JISの規定は現状を追認しただけ なんです。

そんな訳で、実際のところ誰が決めたかは不明です。でも合理的に決められています。以下はその推定です。


AMラジオ 455kHzの場合



歴史的経緯から



1920年代、1930年代のスーパーヘテロダインを解説したこの文書には
455kHzという周波数は出てきません。出てくるのは42kHz。
つまり、この頃は400kHz台の中間周波数は決まっていませんでした。

まだ戦時中、昭和16年(1941年)発行 のRCAのRADIOTRON DESIGNER'S HANDBOOK 3rdエディションには、450〜465kHzが適していると書かれています。
RCA
代表例としては465kHzが使われています。

電通大ミュージーアム所蔵の米国製ラジオMONTGOMERY WARDS 1947年製は455kHzですが
翌年、1948年に日本で作られた日本無線のラジオはまだまだ463kHzです。
第二次世界大戦後(中?)に設計された米国のスーパーヘテロダインラジオで、
IF周波数が判っている物は少ないのですが(展示会場、ホームページでも書かれていない場合が多い)、
書かれている場合は455kHzが多いように思われます。

戦後すぐの日本の中波放送周波数は550〜1500kHz、当初の日本製ラジオの中間周波数としては463kHzが多く、
475kHzや422kHzなども使われていました。

つまり455kHzの採用について、日本はどちらかというと遅かったということです。
海外で455kHzが使われていたからそれに合わせたという処でしょう。で、規格が追認。
タイミングを考えると、戦時下の米国で生産性をあげるために規格を統一したという可能性が考えられます

では、何故455kHzに合わせたのか、それはこの周波数が合理的であったためです。


中間周波数に求められる条件


そこで逆に、中間周波数選定の条件を考えてみましょう。

周波数が高すぎない事
 ダイヤル一つで選局したいですから、トラッキングが取れる範囲にしないといけません。
 放送帯に入るのはダメ!、そして周波数が高すぎると中間周波数での選択度が低下します。

周波数が低すぎない事
 低いとイメージ比の悪化を招きます。簡略化を考えると高周波同調は1段にしたいところです。
 300kHzより低くなると長波放送の受信に支障が出るようになります。
 同じ回路で短波放送を受信する場合、イメージの問題は更に大きくなります。
 当時は短波(3.9〜12MHz)付きのラジオが当たり前に売られていました。
 短波付きのカーラジオだってあったのです。

局発が漏れた時に妨害を生じない事
 真空管受信機では局発のレベルは高めです。
 高周波増幅が無い時、局発は簡単に漏れてしまいます。
 中間周波数が高ければ、受信周波数と局発周波数が離れますから、
 高周波同調による局発漏れの阻止力が上がります

そこから決まる中間周波数


500kHz台は論外!
 その後、放送用周波数は530kHzからになりますが、これは510kHzまでの船舶通信との
 ガードバンドを狭くしたことで実現しました。
 受信周波数と中間周波数が近すぎると中間周波数信号の飛び込みが発生します。
 考えうる中間周波数は520kHzしかありませんが、可聴周波数のビート発生の可能性もあります。

500kHz付近もダメ
 490kHz〜510kHzは、遭難通信用周波数です。帯域を考えると、480kHzあたりから上は使えません。

410kHz付近もダメ
 410kHz±3.5kHzは、船舶の航行用方向探査用信号の周波数です。
 一般には、受信信号の最弱点(ヌル点)を知る事で方向を確認します。
 ここに妨害を与える事も許されません。

この両者の間は船舶通信です。通常最大でも1.2kW、普通は500Wですし、
信号はCW(電信)、連続波(放送・局発)からの混信に強いという特徴があります。
IF段が発振して漏れても大丈夫!。
逆に放送受信時のCW混信は多少容認してもらうことになりますが・・・。 
どちらも400kHz台全体で言えることです。

ということで、500kHzと410kHzの中間を取るとどうなるか!、
(500+410)/2=455 めでたく455kHzが出現しました。

この計算だけで決まったとはとても思えませんが、各種条件をクリアしているのは確かです
それでも納得できない方はこちらをどうぞ。
歴史から振り返ります。

455kHzにある意外なメリット


別に455kHzピッタリでなくても良さそうなものですが、実は意外なメリットがあります。
それは、局発信号に、常に端数(5kHz)が付く事です。

放送は10kHz置き(当時)、局発には5kHzの端数という事は、局発が漏れた時のビート音が
常に5kHzとなります。
10kHzステップの世界では、これはもっとも高い周波数です。
その後、9kHzステップになりましたが。

電話の帯域を考えれば分かる通り、5kHzだとカットしても内容は聞き取れます。
端数を6kHzにしますか?、そうすると4kHzのビートも生じます。ビート2音は厄介です。
2kHzや3kHzだったら、明瞭度に影響しすぎるのでノッチでカットする事もできません。

あとは、ラジオ局の置局時にイメージ混信になる周波数を避ければOKです。

たとえば、540kHz受信時にイメージ混信を生じる周波数は1450kHzです。
これより高い周波数の放送を受信したときのイメージ周波数は更に高くなります。
NHKの大電力局を低い周波数に割り当てて、民放は真ん中、
1450kHz(1449kHz)より上を主に小電力のローカル放送用にしてみましょう。
(実際、今でも10kW以上の局は3局しかない)
受信しているのが大電力、イメージ混信を出すのが小電力局ですから、
その小電力局のごく近傍で無ければ問題無い訳です。
こうすれば、電波の飛びやすい夜間でも、イメージ混信による影響が抑えられます。

小電力局の近傍のリスナーはどうすれば良いか・・・・その局を聴けば良いのです。
中継局があるのに無理して親局を聴く必要はありません。


FMラジオ 10.7MHzの場合



中間周波数に求められる条件


FMラジオの場合はとても理論的に決められています。
中間周波数選定の条件を考えてみましょう

周波数が低すぎない事
 多くの国では、FM放送周波数は88〜108MHzです。
 そうすると、中間周波数は10MHz以下では都合が悪くなります。
 というのは、イメージ周波数がバンド内に出てしまうからです。
 AMでは避けられないイメージ混信ですが、
 FMでは中間周波数を10MHz以上にすると避ける事ができます。
 
周波数が高すぎない事
 周波数が高すぎるとフィルタが作りにくくなります。
 増幅回路も利得が取りにくくなる。
 でも、一番大きい問題はFM検波器の感度が下がってしまうことです。

帯域が取れる事
 ±150kHzの帯域が必要です。周波数を低くしすぎるのもダメですが、
 高い周波数で単素子クリスタルフィルタのような物しか使えないというのも
 困ってしまうところです。

周波数が空いていること
 周波数を高くすると飛び込みの可能性が生じます。
 空いていることに越したことはありません。


こうして決まった中間周波数


10MHz以上、これは必須条件です。

・帯域幅300kHzの間に強い信号が無いという周波数はあまりありません。
 余裕を持って±500kHzぐらいを確保したい処ですが、
 放送バンドは当然、船舶通信の周波数も海岸地区では妨害を受ける危険があります。

・でも、当時、これからは無くなるであろう通信の為の周波数が存在しました。
 10MHz〜11.5MHzには、船舶通信も放送バンドも無かったのです。
 全部、割り当ては固定通信。
 実はここ、短波での国際電話のための周波数で、海底ケーブルへの移行が始まっていました。
 固定局だからいきなり近所から電波発射なんてこともありません。
 国際通信用だから世界的にも統一されています。

・では、その周波数のど真ん中に・・・ 10.7MHzです。世界的に採用されました。
 なお、この件については日本アマチュア無線機名鑑V、p.27に、決定的な資料を引用しています。
 何でだれもこれに気がつかなかったのだろう!。

ちなみに現在は、10150 kHzから11175 kHzまでが免許的にはひとまとめになっていて、
東京都の某団体には公共業務用の固定局免許(島嶼用予備回線?)が、
また、青森県には航空局の免許が下りています。
でも事実上それだけで、割り当ては明らかに空けられています。


おまけ。AMラジオ 450kHzの場合



最近のAMラジオは中間周波数450kHzの物がほとんどです。

これは・・・・、
PLLを組む時に都合が良いからです。
9kHzステップでの局発周波数は531+450〜1620+450、つまり981〜2070kHz
基準発振を9kHzに取ると、分周比は109〜230
10kHzステップでの局発周波数は530+450〜1620+450、つまり980〜2070kHz
基準発振を10kHzに取ると、分周比は98〜207

つまり、450kHzなら、基準発振を切り替えれば、9kHzステップ、10kHzステップ
両方に簡単に対応できる
のです。

どちらも端数が出ませんから、シンプルにPLLが組めます。
分周数もそのまま、「一つおきに設定」のような制御も要りません。

最近のAMラジオはIC化されていて、バーアンテナからの入力を受ける処にバッファがありますから、
局発の漏れは考えなくても良くなっています。そこで分周の都合が最優先したようです。


おまけのおまけ。SSBフィルタ 9MHzの場合



9MHzに中間周波数を取った無線機がたくさんあります。

これの大元は・・北米のアマチュア無線機です。
SWAN社、ATLAS社のように、VFO直のシングルコンバージョン大好きメーカーでは
3.5MHz帯が作りやすく、LSB/USBの反転も可能な5MHz台が使われていましたが、
14MHz帯のスプリアス問題があり、ちょっと小細工が必要でした。
9MHz(VFO)×2−5MHz(中間周波数)=14MHzになります。

SWANのSW-350のように、中間周波数を少し高め、5.173MHzに取って、
スプリアスの最高値を13.2MHzに抑えているリグもありました。

プリミクスの時代になってからは9MHzが使われるようになりました。

米国のR.L.DRAKEやGALAXYがその典型です。

中間周波数9MHzだと、5.5〜5.0MHzのVFOを組み合わせることで
3.5MHz帯の局発を省略できるのです。
その気になると14MHz帯の局発も省略ができますが、
逆ダイヤルが生じますし、逆サイドバンドも必要になり、スプリアスも出やすくなります。
商品設計の時点で逆サイドバンドを考慮していたFT-200はこの設計,
スプリアスはうまく抑え込めています。

9MHz X'fil
たぶん最初にこの周波数を使ったのはDRAKEのTR-3(1963年?)でしょう。



おまけのおまけのおまけ。SSBフィルタ 11.2735MHzの場合



最近は流通していないようですが、少し前まで、11.2735MHzのフィルタが
普通に流通していました。

これの大元は・・、比較的安価なSSB付きの北米のCB機だと思われます。

11.2735MHzというと半端なようですが、これの本当の中間周波数は11.275MHzです。
AM/SSB兼用フィルタというやつで、11.272〜11.275MHzを通過帯域とし、
AMは側波帯を半分削ったH3Eで受信、SSBはUSBを反転させたLSB(11.275MHz)で受信すると
AM/USB両方のキャリア周波数が一致し、周波数構成に無理が生じないのです。
しかも、LSBを作る際に、11.272MHzの水晶発振子を必要としません。(下記 図)
キャリア水晶一つで、キャリアセンターが一致した波を送信できます。

AM兼用フィルタ、そしてLSBしか作らない11.2735MHzのフィルタは
周波数的に非対称、もしくは下側が広がっている筈です。
直接USBを作ろうと考えている方、お気をつけください。

下図の周波数構成そのものはフィルタ周波数が10.7MHzでも11MHzでも作ることができますが、
下側ヘテロダインとなるLSB系はものすごくスプリアスが出やすくなります。
13.5MHz(送信波の1/2)、9MHz(送信波の1/3)、6MHz(送信波の1/4)は避けたいということになると
13.5と9の間の11.25MHz、9と6の間の7.5MHzを利用するのが得策でしょう。
で、中間周波数は11.25MHz、下側ヘテロダイン用ミックスダウン周波数は7.5MHzとしたいところですが、
実は、11.25MHzそのものは使用する事ができません。
というのは、この条件でキャリア水晶の2倍(22.5MHz)と局発を混合して7.52〜7.48MHzにした場合、
OSC2の周波数が15MHzになってしまうのです。7.5MHzのちょうど倍の周波数にあたります。
ヘテロダイン後の周波数の方が低いのでスプリアスはあまり生じませんが、ビートは発生します。
そこでIFを少し(25KHz)上にずらしてやることで、逓倍波を50kHzシフトさせ、
OSC2と混合後の信号周波数(7.6MHz)の倍の周波数を250kHz離しています。
なお、IFを更にずらして11.3MHzにすると、2逓倍後に局発(14.91)を引いた信号7.69MHzの第二高調波
(15.38MHz)が、次の混合で得られる信号(15.69MHz)に接近してしまいます。
この回路の最適中間周波数は11.275MHz(11.2735MHz)付近しか考えらえません。

これが、このタイプの中間周波数が11.275MHz(中心周波数は11.2735MHz)となった理由でしょう。
(私の推測なので、間違いがあったらゴメンなさい)

なお、安価なと書いたのは、高級なSSB付きCB機では、ちゃんと二つのキャリア水晶を用意し、
AMとSSBでフィルタを切り替えているからで、中間周波数は7.8MHzが多い筈です。


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