GPSのPPS信号でTCXOやOCXOを校正する方法



はじめに


皆さん、TCXO(温度補償水晶発振器)やOCXO(恒温槽付水晶発振器)の精度の確認、どうしてますか?  
高精度な発振器を利用している世界では精度の確認以上重要なことは無いとされています。
♪お買い求めいただいた際には0.1ppmの精度ですが、それ以後はご自身で♪
つまり、工場なり検査機関でチェックしたときは0.1ppmでも、今のこの瞬間は保証しませんという
ことになるのです。(数値そのものに深い意味はありません)

そこで2019年2月号のCQ HAM RADIO誌に“GPSのPSS信号を用いて 基準発振器の周波数を測るアイディア”
なる記事を掲載させていただき、2024年4月の同誌でも、ちらっとこれが有用であることを記載しました。

でも、全然注目されない(涙)。

そこで、本ホームページで、再度、この方法を紹介させていただきます。

まずは、GPSのPPS信号についておさらい


PPS信号というのはGPSモジュールが出す1秒パルスです。
一般的には0.01ppm、つまり10のマイナス8乗程度の精度とされています。
1295MHzで12.95Hzとなる、と言えば、その精度がわかると思います。

どうすうれば校正に使えるか


次に、具体的な考え方を説明します。

PPS信号とTCXOやOCXOが出す信号を照らし合わせれば高精度な校正が可能になります。
(以下、TCXOやOCXOが10MHzとして話を進めます。他の周波数の時は分周数を変えれば大丈夫。)
とはいえ、1Hzに同期した10MHzを作るのは容易ではありません。
そこで逆に10MHz側を1000万分周して1Hzを作り、これとPPS信号を比較することを思い立ちました。
しかしここで一つ問題が!
単純に分周しても1秒の中の、どのタイミングの1Hzなのかわからないのです。
まあ、距離が変わらない(=位相差の時間が変わらない)のなら良いのですが、オシロではそれは観測が困難です。
オシロスコープの左端から右端までを1秒とするなら、比較の細かさはその1/100程度、10000ppmですから。
これではアホです
そこで考え出したのが、PPS信号で分周器をリセットしてしまうということです。
PPS信号でリセットするということは、スタートが同じになるということ。
2現象のオシロスコープで2信号を観測すればよい訳ですが、スタートが同じなので、
1秒間の位相差(周波数差)の分しかズレは生じません。
つまり、高速な掃引が可能になり、高精度の比較ができるようになるのです。

具体的な方法は?


周波数が全く同じなら、1000万カウント(10MHz)したときに次のPPS信号が来るはずです。
2信号の周波数が違っていれば、相対的な位置関係が変わります。
PPS信号を基準(トリガ)にして、オシロの表示上で分周信号が右に動いていったら遅れ、TCXO,OCXOの周波数は下です。
逆に、PPS信号を基準(トリガ)にして、左に動いていったら進み、TCXO,OCXOの周波数は上です。
また、OCXO分周出力を基準(トリガ)にして、オシロの表示上で分周信号が右に動いていったら遅れ、TCXO,OCXOの周波数は下です。
OCXO分周出力を基準(トリガ)にして、左に動いていったら進み、TCXO,OCXOの周波数は上です。
いずれにしても、トリガモードはNORM、表示は2ch同時掃引としてください。

原理的構成はこんな感じになります。

実際はさらに工夫があります。
それは、できる限り電気的振動を起こさないこと。
リセットのためにワンショットパルスなどを作っていたら精度は激減します。

そこで考え出したのが、PPS信号自体を分周してリセット信号としてしまうこと。
10秒ごとにリセット信号が出ます。

そのための回路と観測波形


全回路です。
回路図ではPPS側からトリガを取っていますが、これは分周出力側(CH1)でも大丈夫です。

これが専用基板。以前キットで配布したものです。


これが比較波形の例。PPS信号(下)でトリガを取っています。
掃引は0.1〜0.2μS/divをお勧めします。OCXOの調整状態が悪い時はもっと遅くても大丈夫。


上の波形はこのぐらいズレることもあります。
ズレ自体は問題ではなく、そのズレの移動を見てください


実際の校正風景・・・校正前



6秒の間に1μS分だけ移動しています。ということは0.167μS/秒。
測定できていない時間(wait表示)がわかりやすいように、
トリガを分周出力から取っているので、分周出力は進み(OCXOの方が周波数が高い)。
1秒間に0.167μSずれるので、OCXOは10.00000167MHz
(計算式は  0.167μ/(1/10MHz)+10MHz)
1秒間にズレる時間の量/10MHz信号の1サイクルの時間が、周波数の差です。
手振れはご容赦を。OCXOの調整を崩してまで再録画したくなかったのです。

実際の校正風景・・・校正後



OCXOを追い込んだ時の観測波形です。0.1μs/div、画面の端から端までで1.2μSです。
ちょっとふらふらとしていますが、これはPPS信号側の揺らぎ=校正の限界です。だいたい0.01μSぐらい。
つまり1×10のマイナス8乗。ここまで追い込めます。
精度を上げると10秒周期の最後のデータは少々飛びます。
これはOCXOの10MHz分周器をリセットするPPSからの10秒信号で
PPS側の分周器にもリセットを掛けているためです。・・・この動作、無くても良いかもしれない・・・・

オシロの表示が乱れたら


もっと高速にしたら、もっと比較がしやすいのでは?と思うかもしれませんが、
安いオシロでは注意が必要です。それは高速動作にするためのEqu-Time動作があるからです。

この動作では、高速信号を表示するためにデータを補完するのですが、ここで表示に混乱が生じているようです。
決して発振しているわけではありません。


これがその混乱データの瞬間画像。

これが10倍に拡大したその正体。10nS(2div)の中に5本、本来の波形には無い、極性が逆のパルスが入っています。
この画面の2nS/divというのは500MHzですから、オシロの本来の動作範囲をはるかに超えた高速信号(^^;)です。
我が家のオシロは100MHz!、たとえ本当にそんな信号があったとしても、捉えることはできません。

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念のために書いておくと、10MHzを直接出力するGPSモジュールの出力は校正には利用できません。振幅を削って(位相を飛ばして)精度を出しているからです
これを直接無線機に入れるとエラい目にあいますよ