免許制度の改善提言 実質的包括免許を目指して

JAN. 2001 JJ1GRK

   

アマチュア無線局の免許、めんどくさいですね。
無線機を取り替えたならともかく、ちょっと改造しただけでも
届けや申請が必要になり、指定事項の変更を伴うと数ヶ月待たされます。
このため、世間には「包括免許」、つまり無線従事者免許をもって
自由に無線局運用ができるようにして欲しいという運動があるようですが、
成果は捗々しくは無いようです.

包括免許を阻むもの、それは、間違いなくこの一文です。

電波法第2条 無線局とは無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体を言う

つまり、オペレーターである無線従事者だけでは無線局は成立せず、
無線従事者と機械が揃ったところで、改めて、無線局免許を受けなければ
ならないわけです。

電波法第4条 無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を
       受けなければならない。

ここらへんは電波法の根幹をなす条文ですから、アマチュア無線の
包括免許のためだけに改正してもらうのは困難でしょう。そこでここでは、
第2条の条文の形は守り、第4条の形式も守りながらの「実質的な包括免許」を
考えてみます。

さて、普通、無線局免許は無線設備毎に免許されます.

無線局免許手続規則第2条1 無線局の免許の申請は 〜中略〜 送信設備の設置場所
            (移動する無線局のうち 〜中略〜 以外のものについては
             送信装置ごととする)毎に行わなければならない。
 

え?そんなはずは無い?。そうなんです。アマチュア局は特例があります。

無線局免許手続規則第2条9 〜前略〜個人の開設するアマチュア局 〜中略〜
              送信装置ごとに申請する
              ことが不合理であると認められる無線局については、
              第1項の規定に関わらず、二以上の送信装置を含めて
              単一の無線局として申請することができる
 

二以上のというところに注目してください。
要は送信装置がいくつであろうと構わないわけです。
この点は皆さんも御存知だと思いますが....

 

じゃあ、ゼロだったらどうなるでしょう。送信装置がゼロでも複数でも良いのであれば、それは間違いなく「包括免許」へのワンステップです。

電波法第6条 無線局の免許を受けようとする者は、申請書に、次に掲げる事項を
       記載した 〜以下一部略〜
       一 目的
       二 開設を必要とする理由
       五 電波の形式並びに希望する周波数の範囲及び空中線電力
       七 無線設備の工事設計及び工事落成の予定期日

こんな処に落とし穴がありました。要するに、免許申請書の裏に書いている
「事項書」の無線設備の記載ですね。ここで無線設備を記載していますから、
無線設備の数も決まります。

しかし、この条文、開設を必要とする理由とか、目的といった、
今、アマチュア無線ではだれも申請書に書いていないようなものまで
記載を要求しています.

電波法第15条 〜中略〜その他郵政省令で定める無線局の免許については、第6条
        及び第8条から第12条までの規定に関わらず、郵政省令で定める
        簡易な手続きによることができる。

とりあえず、第6条の縛りから逃げられそうな条文をみつけました。

この第15条に関連する郵政省令は次の通りです。

無線局免許手続規則第15条 次に掲げる無線局の免許を申請しようとするときは、
              法6条の規定する記載事項のうち、〜中略〜 下記の
              事項の記載を省略する事ができる
              六 アマチュア局 開設を必要とする理由及び
                運用開始の予定期日

 

あれ!?無線設備はありません。よく考えると現状では当たり前なのですが。

 

さて、この省令を書き換えて、「無線設備」を追加して、一寸工夫すると
無線局を事実上の包括免許とすることが可能になります。
それは、無線設備の変更を記した電波法第17条(と、それが準用する第9条)
が、指定事項の変更が無い場合は許可または届け出だけで無線設備を
変更する事ができるとしているからです。
電波法第19条(申請による指定事項の変更)にもひっかかりません。

 

  1、無線従事者免許 取得
  2、無線局免許 申請 (無線機の有無に関係なく)
  3、アマチュア局が動作することを許されかつ無線従事者の操作範囲内の
    周波数帯、電波の形式、出力 という形の指定事項の免許状を発給
  4、以後送信機を増設する度に法第9条に沿って届け出。(または許可)

 

ミソは3番ですね。指定事項は数値で書き込まなければならないという
規則はありませんから、(バンドの表記方法は指定されています)
文章にしてしまうのです。
文章にしても、ちゃんと他の省令でその内容が指定されていますから
具体的数値と結びついており問題ありません。
しかも、ライセンスと同じ(4種類)数のあらかじめ用意した文面に
コールサインと住所等を記入するだけですから発給も簡単になります。

え?指定されているのに無線設備が無いのは変?
そんなことはありません。電波法では、免許された範囲内で
無線設備を運用すれば良いのです。
5Wハンディ1台で開局しても、指定される出力は5Wではないですね。

無線機無しでは無線局の総体をなしていないという指摘があるかも
しれませんが、実際に運用に入る時、つまり免許が実効力をもつときには
このような事はありえません。
無線機無しで免許状を活用するような場面があるとしたら問題ですが。

4番の届け出は葉書1枚で良いでしょう。許可なら往復はがき。
これなら、監督官庁は実際に設備されている無線設備が把握できるし、
アマチュア無線家は購入した無線機に入っている(と嬉しいな)葉書に
ちょっと書き込むだけで済みます。

許可の場合に葉書が帰ってくるまで待つのは我慢しましょう。

この時問題となるのは自作機です。

法令を変更しないとなると、JARDの保証認定を必要とすることになります。
天下りの問題、JARLとの問題はさておき、ここで時間が掛かるのもこまりものです。

 

しかし、ここでこのJARD保証認定を逆手に取る方法があります。
それは、自作機に対してJARDが出す文書を、名称だけ技術基準適合証明書に
変えてもらうのです。(これは可能です。
今までも自作機で技適を取った人が居ますから。後は手数料と書類の問題だけ)

 

すると、

 

無線局免許手続規則第15条の四 
         郵政大臣又は地方電気通信監理局長は、法第七条の規定により
         技術基準適合証明設備のみを使用する無線局の免許の申請を 
         〜中略〜 電波の形式及び周波数、呼出符号又は呼出名称、
         空中線電力並びに運用許容時間を指定して無線局の免許を与える
 
(参考 電波法第7条 総務大臣は前条の申請書を受理した時は、遅滞無くその申請が
           〜中略〜 審査しなければならない)

 

という条文が活きてきます。(手続き規則の文面は郵政大臣のままです)

 

リグを買っても作っても技術基準適合証明があるのであれば、
この無線局は指定事項だけで免許されるわけですが、
それはすでに指定されているわけですから、
指定事項に変更の無い設備変更、すなわち届け出(または許可)となります。

 

というわけで、

 

  1、無線従事者免許 取得
  2、無線局免許 申請 (無線機の有無に関係なく)
  3、アマチュア局が動作することを許され、かつ従事者免許の範囲内の
    周波数帯、電波の形式、出力 という形の指定事項の免許状を発給
  4、市販無線機器を入手するたびに法第9条に沿って葉書で届け出。
    (または許可)
  5、無線機を自作・改造した場合は技適を申請(JARDより自動的に届出)

こんな形でどうでしょう。
この手順とすると、無線局免許手続規則第15条の修正が必要なくなる、
すなわち法令の変更が一切要らなくなると言う長所もあります。

あとは、いかにして技適を簡略化するかですが、アマチュア局には
アマチュア的技術水準にのっとった技術基準があるはずです。
保証認定はできても適合証明は出来ないというのもおかしな話ですから、
保証認定並みの方法にすべきです。

 

この、技術適合証明について下記の様なルールは如何でしょう。

実際に実用になるレベルの自作無線機では、
問題になるとしたら電波の質、それもスプリアスだけの筈です。
この点での締め付けは国際的にも年々厳しくなっています。
(CCIRに、「すべての無線設備について−70dB」を提案している国もあります)

ですから、この点だけは重視して、自作無線機の場合は

 

1)無線機の持ち込み検査で無線機テスターに掛けて、OKなら即時技適を発行
2)簡略化した送信系の信号系ブロック図と送信出力部フィルター回路図と
  そのフィルターの設計条件(または特性)を記載した文書で技適を発行
3)原機の技適と改造部分のブロック図の提出で技適を修正して即時発行
  (ただし、終段とフィルターを改造したものを除く)

 

(1)は正しい技適の姿です。何にでも対応できます。
(2)は正しい設計の姿です。キットやガレージメーカー製品は
  この文書をあらかじめ添付しましょう。
  自作時も、フィルター系さえ始めにしっかり設計すれば、
  あとは高い自由度を保てます。
  技量が無い方は市販フィルターを購入して特性図を送付すれば良いだけです。
(3)は、市販機の改造の場合です。
  変調方式を追加する程度の改造なら、終段の動作やフィルターの設計なんて
  関係ありません。堂々と「改造」と名乗ればチェックは省略されるわけです。

 

自作派は減っていますから、大抵の方は一旦局免許をもらえば、
あとは買ったリグの中に入っていた葉書にコールサイン
(許可の時は更に住所氏名)を書いて送るだけになる筈なのですが.......

 

というわけで、
JARDの技適ルールの修正と、監督官庁の法運用の変更だけで、
法改正をすることなく、かなり自由度の高い無線局運用とする事が
可能です。

 

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