業務機とアマチュア機の感度の違い


〜〜〜間違えて業務機でDXにチャレンジしないように〜〜〜

アマチュア無線機と業務機(以後、アマ機とプロ機)の設計の違いって、ご存知ですか?
ゼネカバ送信ができる....とか、
ラックマウント用が前提なので、前面左右に重さを支えられる点がある....とか
着脱の都合でスピーカーは上面にも下面にも無い....とか
背面に回り込めない操作卓対策で接続コードは外れないようにできている....とか
ヘビーデューティに耐えられる....とか、
色々ありますが、一番の違いはやはりその性能でしょう。

しかし.....
メーカーの技術力に差がある上にアマ機に掛けられるコストが限られていた昔だったら、
間違いなく性能に差がありましたが、今はそんなことはありません。
多くのスペックでアマ機はプロ機を追い越しています。
でも、プロ機はアマ機に劣っているわけではありません。つまり、考え方が違うのです。

 

では、一体どこが違っているのでしょう。


これは最新型プロ機の受信感度の例です
よく言われるのは、プロ機は感度を押さえ気味にしているという話です。
このスペックを見ればそれも納得できるでしょう。(注1)
 

でも、プロ機だって何も考えずに感度を落としているわけではありません。
感度が高いに越した事はないし、自作をした事がある方ならご存知の通り、SSB(J3E)で1uVという感度は、
案外簡単に達成できるのです。

 

さて、感度に関する考え方が一番顕著に表れる例として、ここではプリアンプを例にとって、話をしてみましょう。
アマチュア用のプリアンプの設計を説明した本を開いてみてください。
入力側にはNF(雑音指数)を悪化させない程度の簡単なフィルタを、出力側には充分なフィルタをと、
かかれているはずです。
これは入力側のロスは雑音指数を悪化させるからで、感度を限界まで取ろうとするのであれば、
確かにこの手法がベターです。

しかし....プロ用のプリアンプはこのような設計をしません。
まず、一旦必要充分な感度を確保してから、あとは必要な多信号特性を確保する為にフィルタの強化をします。
プリアンプが完全にリニアであれば、たしかにプリアンプの出力側にフィルタを入れても構わないのですが
現実にはそんな事はありえませんし、リニアリティを良くする為に負帰還を掛けたらNFは逆に悪化してしまいます。
たとえば、プリアンプのIMDが80dBだったとして、混変調で受信周波数に落ちる2波が
受信信号よりも80dB強く発射されていたら、もう、これでアウトな訳です。
ビルの屋上などに設置した無線機や、移動局では、こんな事は日常茶飯事で起こっています。
たとえば、東京池袋のサンシャインシティはよく飛ぶけれど混変調が起き易い場所として有名ですが
ここにはたくさんのプロの送信設備、受信設備が設置されています
(それも、近接周波数の物ばかり...............) 

ではどうするか....
簡単ですね。入力側にフィルタを入れて妨害する2波をもっと弱くしてしまえばよいのです。
フィルタにはロスがあります。だからプリアンプの前にはフィルタは入れたくないのですが、
受信ができなくなるのであればそんな悠長な事は言っていられません。
ロス3dBのフィルタが妨害波を10dB落としてくれたら、24dB弱い目的波まで受信可能になるのです。
ロスが3dBで妨害波を10dB落とすフィルターは、フィルタとしては、どうでも良い様な代物です。
こんなフィルタを入れて受信感度を4割落としても、受信感度が1桁以上良くなるというのは
不思議な感じがするかもしれませんが、
これが混変調の本当の怖さであり、不要な感度は害ばかりという事の証明になります。

アッテネーターを入れて感度を落とせば強力な局からの妨害には強くなるというのは、
皆さんもご存知のことと思いますが、 アッテネータでなくて、多少たりとも選択力を持つフィルタに変え、
それを常時入れているのが業務用無線機の姿
だと思って下さい。(注2)
業務機の場合中を見ると、
“脆弱な回路”をフィルタとシールドが守っているように見えるのは気のせいではありません。
回路が騎士だとすると、シールドが鎧、フィルタは盾です。

アマチュア機ではこんな事はできません。何故ならギリギリの感度が要求される為です。
アマチュア機のNFは4dB前後ですが、コネクタや送受切替スイッチやフィルタ切替回路のロスを考慮すると、
プリアンプのNFは1.5dB以下、フィルタでのロスを1dB以下に抑えないとこの数値は達成できません。
フィルタでのロスが全周波数で1dBという事は、普通の同調回路ですらそう簡単には使えないということです。
パスバンドに影響を与えない様にやたら広いBPFが使われているのもやむ終えないでしょう。(注3)
アマチュア機の場合可能な限りシールドを省略し、メインフィルタ以外のフィルタをあまり重視していません。
回路が騎士だとすると、騎士の動きを妨げないように最小限の盾だけをもっているイメージです。

ここでもしも、BPFの代わりに複同調回路を置いたらどうなるでしょう。
たとえば、Q=10の同調回路を2段にすると、150MHzに対して165MHzの信号は6dB落ちる事になります。
また、この場合、157.5MHzの信号は3dB落ちます。
従って全く他の回路が同じだったとしても、BPFを複同調回路に置き換えただけで、混変調成分は9dB減少します。
ただし、複同調回路ではロスがありますから、感度も低下します。
ロスが1dBとすると、感度は1dB低下し、混変調成分は10dB低下する事になります。
ホンの少しの感度低下と引き換えに、10dBの特性改善を得る事ができました。
実際のプロ機もこのように設計されています。(注4)
ワーストケースで使えないプロ機はおもちゃと一緒ですから(注5)、どんな場合でも確実に使える事が大事なのです。

じゃあ、この考え方がそのままアマチュア機に使えるかというと、そんな事はありません。
感度定格の劣る機械はアマチュア用では受け入れられません。
カタログを鵜呑みにしないにしても、かすかすの信号を使っての感度比較は誰しも重視しますし、
かすかなDXを拾うということは、受信系のチャンピオンデータを積み上げていく作業であるとも言えるわけで、
間違いなく使い方の主眼が違っているのです。

〜〜結局、業務機はアマチュア機の代わりにはならないということです〜〜


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   データを借用したJRCの最新型HF機。日本無線技報No.44より引用。

 
 
注1)プロ機の感度はアマチュア機よりも6〜7dB悪く表記される事に注意

注2)中波帯からの妨害についても、ATTではなくフィルタで感度低下をさせているのが普通

注3)一部のリグは同調形ですが、結合を密にし、同調を補正することで感度低下を防いでいます。

注4)ロスの割に減衰量が少ないように感じるかもしれませんが、これは妨害信号が近い周波数にあるためです
   本当にシビアな場所では、銀メッキ1/4波長キャビティ4段、Q>100なんていうフィルタが使われていますが,
   もちろんこの場合も感度低下と引き換えに隣接周波数特性を稼いでいます

注5)165MHzで送信中に、150MHzで連絡を取るというのは、とある無線業務では日常的に行われています。
   つまり、ここに出した例は、実はワーストケースですらありません

追記)ダイナミックレンジが広くなればこんな問題は無いと考えるかもしれませんが、
  隣で同一バンドで送信している場合のように、ちょっとやそっとダイナミックレンジを
  広げてもダメな場合がありえます。
  このような場合、本当は送信側のIMDと受信側の隣接妨害特性がつりあうように送受信機が設計されるべきで
  業務無線のチャンネル割り当てはここまで踏み込んでいます
  
  ゼネカバのアマチュアHF機のダイナミックレンジはルーフィングフィルタの帯域外信号で測定されていることに
  注意してください。
  これよりも狭い間隔で測定すると、ダイナミックレンジの値は急激に悪くなります
  また、周波数を選択する部分が他にはBPFしか無いため、測定周波数をそれより大きく離しても
  ダイナミックレンジはあまり改善されません。