AMとSSBの到達距離の差について     c JJ1GRK 2005

♪時には母のない子の様に♪というわけで、時にはまじめな話をさせてください。久しぶりの超大作です

受信機や受信回路の感度をみると、AMとSSBで別々の定格が記載されています。
「世の中には絶対と言うことは無い」という話が良くありますが、
AMよりもSSBの方が飛ぶ!という話はその例外ではないかと思えるぐらい、SSBの方が良い感度です。
 
では、AMとSSBではどれだけ違いがあるのでしょうか?
 
順を追って説明します。
 
1、送信出力の比較

まず、送信出力から考えてみましょうか。こちらは教科書にも載っていますね。
10W出力だとしたら、キャリアに5W、側波帯はそれぞれ2.5W。これがAMの10W出力です。
一方、SSBは側波帯出力=出力なので、こちらは2.5Wという表記になります。
これから、単に1/4(-6dB)としても構わないように思えるかもしれません。
でも、感度や到達距離についてみる場合は別の角度から考察する必要があります



2、計算は受信側で

本件は通信回線設計についての考察ですから主として受信側で計算が行われなければなりません。
教科書はおろか、WEBにもこれを解説した物は見あたりませんので、ここに計算例を書いておきましょう。

まず、片側の側波帯のレベルが同じ(仮に10uV)のSSBとAMを比較してみます。

まずは、片方の側波帯(仮にUSBとします)にのみ着目します。
送信キャリア出力10Wとして、2.5Wとなる側波帯です。
途中の伝搬ロスがありますが、到達した信号を復調キャリア付きで平衡検波して
1Vの出力が得られる回路があったとします。
AMだとどうなるでしょう。
検波器のロスを無視すると、AMでは2V(+6dB)の検波出力が得られます。
え?なんで?って思うかもしれませんが、位相の合った2つの側波帯が同時に存在するためです。
位相が合っていない場合は+3dBですが、
位相が合っていると電圧、電流共に合成されるので+6dBとなります。
さて、レベルは上がりました。でも問題はS/Nです。
AMでは帯域が広いのでその分だけS/Nは悪化します。
SSBは3KHz、AMは6KHz??いえいえ、ここで必要なのは法規上の帯域幅ではなく
等価雑音帯域幅ですから、SSBは2.4KHzとなります。
(AMは放送受信時でも雑音帯域としては6KHzとなります。
実際の帯域は15KHzぐらいあるのですが)
雑音同士は相関性がありませんから、帯域が倍になると雑音は3dB増となります。
6k・2.4kだと3.98dB
、これだけ感度が落ちるわけです。
感度向上は6dB,感度低下は3.98dBですから、ここではAMの方がレベルが高い
(感度が良くなる)事に注意してください。
つまり、見かけ上、AMの方が2.02dB感度が良くなります。
これは帯域利得と呼ばれている物で、UWB(ウルトラワイドバンド)や
SS(スペクトラム拡散)などはこの利得を利用して信号を浮き上がらせています。

さて、今までは同じレベルの側波帯があるものとして計算してきました。
実際はUSBが10uVだとすると、AMのLSBにも10uVの信号があることになります。
また、ベクトル図を書いてみると一目瞭然ですが、
過変調にならないためには20uVのキャリアが必要です。

というわけで、片方の側波帯のレベルがSSBと同じになるためには、
AMの電力、それもキャリアレベルは6dB高い必要があります。

実際は帯域が広く側波帯2つ分の情報を得ますからこれにより利得が生じ
同じレベルの復調出力を得るためには
つまり、6-2.02=3.98、約4dBAMの方が信号が強い必要があるのです。
これを送信側に置き換えて言えば、AMの10WとSSBの4Wが同等であると言えます。

3、実際の送信能力の差について

AMの10WとSSBの4Wが同等だったら、もっとAMは生き残っても良かったように思いませんか?
ビート混信の問題はありますが、音は良いし、低い安定度で利用することが出来ますから

実はここに、送信回路の問題が絡んできます

AMの10Wというのは、キャリア電力です。側波帯電力は表記に入っていません。
で、ピークはというと、教科書に書かれていてだれでもご存知の通り、40Wですね。
SSBよりも4倍高いピーク電力が発生します。
一方AM10Wと同等となるSSBはピークでも4Wです。掛け値も無駄もありません
という事は、同じ受信信号を得るためには実質的に10dB(電力で10倍)強い信号を出せる設備が必要なのです。
これがSSBが普及した一番の要因でしょう

4、受信感度の表示上の差について

項1により、同じ電力で送信した場合、言い換えれば同じ電界強度の場合はAMの方が
感度は4dB低いという結論が出ました
しかし、実際の受信機の定格上の感度差はもっと大きくなっています。これは何故でしょう

実は、AMとSSBでは感度の測定方法が違うのです。
SSBは100%変調(単一キャリアとも言えます)で測定していますが、
AMでは30%変調で測定しているのです。側波帯成分はキャリア出力に対して-10.45dBとなります。
ということで、カタログ上に現れるべき感度差はわかりましたか?-14.47dB、これが正解です。
これよりも感度差が少なければ、AMについて頑張っているリグです。
感度差が大きい場合は....次をお読みください。ダメリグとは限りません。

5,実際のリグの感度差、特に差が大きい機種について

前項の通り、SSBが0.25uVだったら、AMは1uV〜1.5uVであればあとは誤差の範囲であり、
理論通りに作られていると言うことになります。
しかし、実は、SSB機の中には非常にAMとの感度差が大きいリグがあります。20dB以上差があるのです。
6dB、感度が足りない......これはなぜだと思いますか?

リグによって原因は違うのですが、実はこの6dBというのがミソだったりします。

この6dBはキャリアに起因します。
今までの話はすべて、片側の側波帯のレベルが同じという処から話を始めました。
では、本当に機器の内部でAMとSSBの片側の側波帯のレベルは同じでしょうか?
そんなわけは無いですね。特別なことをしていない限り、
AMの最大レベル(尖頭値)とSSBの最大レベル(尖頭値)が一緒になります。
SSBの尖頭値はともかく、AMの尖頭値ってなんでしょう。
これは側波帯とキャリアが合成された物のピークの事で、全部の信号の位相が合った瞬間です。
キャリアが10Wなら全送信電力は40W、これが尖頭値を叩き出す瞬間ですね
ちなみにここから側波帯だけを抜き出すとちょうど-6dBとなります。

頭の良い方はほど、この話は簡単に納得できないと思います。
AMの尖頭値とSSBの尖頭値が一緒になる、そんな事が本当に起きているのでしょうか?
 
答えは.....「非常に高感度なリグではこの現象が起きています」

たとえば、SSBで0.25uV、S/N=20dBもしくは0.15uV S/N=10dBの受信回路があったとします。
(この2つの表記は同じ事を表現しています)
この回路に2uVの信号が入ったら何が起きるでしょう。
答えはAGCが動作し、IFの利得が低下します。
AF段のダイナミックレンジは案外狭く、40dBぐらいしか無い場合もあります。
このため受信限界よりも多少でも強い信号に対しては積極的にAGCを働かせて
明瞭度を上げると共にノイズレベルを下げて静かな受信音を作り出している場合があるのです。


SSB受信であれば歓迎すべき特性ですが、
この回路では同様にAM信号に対してもAGCが動作してしまう場合があります。
AGCがAM尖頭値=SSB尖頭値を作り出す動作
となるのです。
AMの側波帯レベル(LSB,USBの合成値)は尖頭値-6dBですから、
このとき、SSBとAMでは20dBの感度差が発生します。

モードでレベルダイヤグラムを変えるのは大変です。
そこで、この感度差を簡単に軽減する方法としては、
AM検波器のあたりに6dBの利得があるアンプを入れる
という手があります。
もともと側波帯(検波出力)不足を補うためのものですから、これはAFで充分で、
AMでの受信感度に定評があるリグではこれが入っている物が多々あります。


ご理解いただけたでしょうか。

1、AMの10WとSSBの4Wは同等
2、同一の到達距離を得るためには実質的にAMはSSBより10dB高い出力能力をもつ機器が必要
3、定格表記上では、AMの受信感度はSSBよりも14.5dB劣るのが普通
4、高感度な受信回路ではAMでAGCが動作してしまい更に感度を下げてしまうことがある

と、いう訳です


c JJ1GRK 2005 禁 無断転載

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