地表波って何?



いろいろな処で低い周波数の電波伝搬、
そしてラジアルアースについて書いているのですが、
どうも、理解されていない部分があるようです。
そこで、あらためてどなたでもわかるように、
真面目にまとめてみました。

<大前提・・・お間違いのないように>

ここでいう地表波は大地に基準電位を置く垂直偏波の電波を
指しています
長波、中波の電波の水平方向への放射は、
ほぼ例外なくこのモードで発射されています。
(上への発射は空間波)

まずは、一般的なモデルで地表波を説明してみます。


<誰でも知っている事>


普通の電波は水平方向に発射しても、地表を伝わることはありません。
しかも主たる放射は上向きになってしまいます。
なぜなら、電波は直進し、地球は丸いからです。


でも、見通し外まで届く場合があります。
これは回折を起すような“山”や“建造物”がある場合です。
でも、回折現象では電波はとても弱くなってしまいます。
都会のような処では有益ですが、山岳地帯で山の裏側には
ほとんど電波は届きません。
まして、回折の元となる突起の無い海上では電波は曲がる事が
できない筈です。

でも、地上波は到達します。私の説明が信じられないみなさんは、
これの図7・7を良く見てください
送受信共に地上高0mって書いてあります。つまり見通し距離ゼロ。でも、電波は到達するのです。


<知っているけど不思議な事>

ラジアルアースを用いた垂直アンテナから発射された電波は
回折が無くても電波が大地に沿って進みます
見通し外に電波が届くのです。

その代表例が中波ラジオ。地表波は最大400kmぐらい届きますが、
見通せるようにするには、送信点と受信点を3139mの高さにする
必要があります。
しかし、実際は受信点は地上1mでも受信できます。
実用的です。でも、これでは話が合いません。


<何故?> 

伝搬路上に電波を再輻射するアンテナが、ずらっと
並んでいる場合を考えてみてください。

再輻射点同志が見通し内であれば、電波は大地に沿って
曲がっていくかのようにふるまいます。


<もっと具体的に?>

この図の赤丸に注目してください。
これは再輻射をすると想定した接地アンテナの
アースポイントを表しています。
接地アンテナのアースポイントがあるため、イメージが作られます。
これにより、仮想アンテナができて見かけ上再輻射が生じます。


え?実際には仮想アンテナなんか無いって?
これは二つの考え方ができます。
一つは、基準電位の向こう側に見えるという考え方
(上のエレメント(仮想)からは下に、下のエレメント(仮想)からは上に)
通常、ラジアルアース(基準電位)は鏡面作用を作り出しますが、それが
両方に作用していると考えるとわかりやすいです。
見掛け上、アース(大地)がエネルギーを運んでいます。
地表に沿って電波が進むと言われる所以です。

もう一つは、垂直偏波の振幅の中点が、基準電位の処に揃えられるような
作用が働くと言う考え方です。
ただ、その時にどうエネルギーが変化するかを考えると、やはり
鏡面作用による仮想アンテナを考える事になります。
そして、この考え方でも地表に沿って電波は進みます。




<接地型アンテナの動作を考えてみる>

ここで、ラジアルアースを用いた
接地型アンテナの動作を考えてみましょう。
上の図のように、アンテナ同志が電波の送り受けをし、
アース同志が高周波電流の送り受けをしていると考えてはいけません。


仮想アンテナの基部は、それぞれ独立しています。
電波の受け渡しはあくまでも電波。
地中電流はそれぞれの仮想アンテナの周囲で生じるだけです。
でも、この誘導のおかげで仮想アンテナの基部は基準電位になります。


この仮想アンテナにロスは無いのでしょうか?
本来は直進する筈の電波が、仮想の接地アンテナに誘導する訳で、
仮想アンテナ全体に誘導しない分だけ大きなロスがありそうです。


でも、再輻射する仮想アンテナが無限にあれば、
つまり、地上での間隔が≒ゼロなら、ロスは生じません。


こうして、仮想アンテナ同志で結ばれて
地球表面の曲面に沿うように電波が進んでいきます。


<GPと接地型垂直アンテナの違いは?>

グランドプレーンやブラウンアンテナ(以下GP)の様に、
接地機構をもたないアンテナはどうなるでしょう。
アンテナとしては正規に動作していても、
大地の基準電位には接続されていませんから、
大地に沿って伝搬することはできません。
GPはあくまでも垂直ダイポールアンテナをその中点で
半分に切ったアンテナです。
中点電位を0Vにするのはラジアル。アースではありません。



<ラジアルアースとラジアルの電気的な違い>


ラジアルアース(左)とGPのラジアル(右)の違い、わかりますか?
接地アンテナのラジアルアースは全体が大地の中。アースです。
全部が基準電位ですから、電圧は生じません。
電圧が生じないから共振も無く、長さも自由です。
その根源はアースですから、場所が無い場合、
アース棒を何本も打ち込んでも一応実用になります。

GPのラジアルは先端が解放の線路。だからここはハイインピーダンス
そしてそこから1/4波長離れた点はローインピーダンス
給電点は垂直アンテナのラジアルアースと似た動作ですが
両者では、ラジアルの先端の状態が全く違います。
GPのラジアルの先端は高電位なのです。だから地表(アース)からはある程度離す必要が有ります。

ラジアルアースが作り出すのは、無限の基準電位(アース)
そして“地表波”という電波の伝搬形式。



<実測と突き合わせてみる>

こんどは逆に観測データから、本ページに書いているモデルを確認してみましょう

1)周波数が低いほど減衰は少ない
  →周波数が低いと仮想アンテナの長さが伸びて、ロス分の割合が減るから


2)大地導電率が高いほど減衰は少ない
  →各仮想アンテナが作る誘導電流が大地の抵抗分で生じるロスが減るから


3)周波数が高いとある程度の距離から減衰が増える。
  →仮想アンテナの列を想定しましたが
   大地のカーブが無視できなくなる場所の仮想アンテナは
   物理的に励振できません。
   つまり、有る程度の距離からは励振しにくくなるわけですが、
   これは波長が短いほど近くで影響が出ます。
   つまり、周波数が低いほど遠方まで地表波は飛ぶ訳です。
   電離層発見まで、遠距離通信に長波が使われた理由はこれ!です。

4)すすむ先で大地導電率の良い処に戻ると、電界強度が上がることがある。
  もしくは、後ろに回り込む現象があるとも表現される。
  →単に大地電流だけを考えるとこれを説明できません
   再輻射と考えると説明できます。(再輻射は全方向だから)

5)地中にアースを埋められない場合は地上1mぐらいにラジアルを展開する
  カウンターポイズを使うが、本数をいくら増やしても
  そのアンテナの利得は-6〜-10dBi程度より良くならない。
  →見掛けだけで判断するとこれは地面近くに置いた、
   ラジアルの多いGPそのものですが、
   実際は大地(基準電位)と容量結合したラジアルアース!。
   その証拠にカウンターポイズの長さは基本的に任意長のです。
   長いに越したことは無く、容量結合の分だけ能率は落ちますが。   
   そして発射されるのは地表波。地平線を超えていきます。
  

御理解いただけましたでしょうか。
え?地表波のこんな伝搬は教科書に書いていない?
いいぇ、昔の教科書には書いてあったようなのです。
そうでないと地球の裏側に長波が飛ぶ理由が説明できないので。
この資料の電界強度計算法の
ページを見てください。
“電波の伝搬をほぼ地表に沿って伝搬する地表波と
  〜中略〜空間波の合成"との表記が見られます。
ちゃんと、大地に沿って伝搬する電波の図まであります。(下の図のEg)
計算したい方は、これがわかりやすいかも
項目5は、地球の曲がり方を考慮した近似計算です。
これは廻りこみを指摘した資料です。

名前だけは有名な(笑)T型や逆Lアンテナも地表波中心のアンテナです。
T型も逆Lも、水平部分があるのに、垂直偏波を送り受けします。
<最後におまけの話>


ラジアルアースを展開する代わりに、垂直ダイポールの
片方のエレメントを
地中に埋めるとどうなるかご存知でしょうか。

こうすると地表波ではなく空間波が発射されます。曲がらない!
理由は簡単で、大地(アース)との親和が取れないからです。

大地付近に置いたGPと同じ動作になります。
(カウンターポイズは大地との容量結合を利用する別物です>

ラジアルアースを深く埋めてはいけないのも
基準電位である地表に近づけるためです。
工事の都合で深く埋めないのではありません!

<最後の最後に豆知識>
なんでカウンターポイズなんてものがあるかわかりますか?
岩場で工事が出来なくて困るから?違います。そんな導電率の悪い処に接地アンテナは建てません。
答えは・・・・銅線が盗まれた時にすぐわかるようにです。
埋めちゃうと、無くなってもわからないから。



単なる「ラジアル」と「ラジアルアース」は全く振る舞いが違いますので、
それを説明してみました。

もう、これを読まれた方は混同する事は無いと・・・・・信じています。

                        C JJ1GRK 2017-2019